一人きりのオフィス

仕事の都合でここ最近残業が多いのだが、私のオフィスでは夜。
それも私一人きりになるとどうにもカタカタと音がするのである。
何処からとも無く、乾燥したものがぶつかる音とでも言うか擦れる音とでも言うか。
金属の擦れるような音でもある。
一向に的を射ない、曖昧とした感覚であるがそうとしか言えない音なのである。
ただ、不快に思うほど大きな音でもなく、かといって恐怖をおぼえるような音でもない。
だが、気にはなった私は、音の出所を探ってみた。
すると、どうにも一部撤収した部門の空きスペースらしい。
空調も切られ、暑苦しい部屋の中で一体何が音源であるのかよく分からない。
出所の部屋は分かっても、肝心要の出所自体は一向に分からないのであるから、私としても対処のしようが無いのである。
はてさて、どうしたものかと思っていたある日。同僚に思い切って問いかけてみると、なんと同僚もその音を聞いた事があると言う。
それも昼間、大勢の同僚と一緒の時だったという。
そのときも皆で考えたようであった。
しかし、結論は出なかったそうだ。
音源の場所は分からないし、それでも言い切れるとするなら天井でも床でもなかったと言う。
つまり壁である。
私のオフィスは鉄筋コンクリートの社屋で、壁は壁面収納となっている部分とただの壁の二種類があるのだが、そのどちらとかとは分からなかったらしい。
なんとも不思議であるが、皆聞こえる場所がまちまちと言うことであり、総務に点検の依頼は行ったらしいが、此れと言って早急に対処せざるを得ない状況ではない為期待は出来ないであろう。
しかし、まぁ音は聞こえるがさりとてどうと言うことは無い。
ただ、静謐な空間では異様に大きく聞こえるというだけの話だ。
話題が無い私の苦肉の話題である。何と言うことも無く、ただ、それだけの話。
それほど特異なことでも無いかと思いつつ、今日も今日とて残業に勤しむのである。